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大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)725号 判決 1962年11月07日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は

控訴代理人において「控訴人が原審において主張した被控訴人主張の(3)、(4)の手形は、泉大津信用金庫から割引のため被控訴人名義にしたのみであるとの主張は、被控訴人は訴外東洋自動機械株式会社の取締役であつたため、手形割引の便宜上、形式的に被控訴人が右手形の白地裏書を受けている如く装つているにすぎず、真実は右訴外会社が右手形の所持人であつて、被控訴人はこれが所持人ではないという趣旨である」と釈明し、立証として、当審証人玉井安雄の証言を援用したほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

控訴会社が訴外東洋自動機械株式会社に宛て、被控訴人主張の約束手形五通を振出し交付したことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第一ないし第五号証によると、被控訴人主張の(1)、(2)の手形が右訴外会社から株式会社住友銀行に裏書譲渡せられ((1)手形は昭和三三年八月一五日、(2)手形は同月二三日)、右銀行がこれらをいずれも満期或はその翌日((1)手形は同年一一月一九日、(2)手形は同月二四日)に、支払場所に呈示して支払を求めたが、拒絶せられ、同銀行泉大津支店が同月二七日右各手形を前記訴外会社に戻裏書をして譲渡し、被控訴人がこれを同日同会社より裏書譲渡を受けたこと(右手形が期限後裏書であることは当事者間に争がない)、(3)、(4)の手形が右訴外会社から、被控訴人、訴外泉大津信用金庫と順次裏書譲渡せられ、同金庫がこれを訴外株式会社住友銀行に取立委任裏書をしていずれも満期に支払場所に呈示して支払を求めたが、拒絶せられ、右金庫から日附を記載せず被控訴人に裏書譲渡せられていること、

(5)の手形が昭和三三年一一月一三日右訴外会社から株式会社住友銀行に、同月二七日同銀行泉大津支店から訴外会社に裏書譲渡せられ、更に同日訴外会社から被控訴人に白地式裏書により譲渡せられ、被控訴人において現在これらの手形を所持していることが認められるから、被控訴人は裏書の連続のある手形の所持人として正当な権利者と推定するのを相当とするところ、控訴人は右(3)、(4)、(5)の手形はいずれも形式上被控訴人が所持人となつているにすぎず、正当所持人は右訴外会社である旨主張するが、これを肯認するに足る証拠はなく、却つて右甲第一ないし第五号証と原審における証人玉田順治の証言、被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、被控訴人は右訴外会社の役員の形で資金面の援助をしていたところ、右訴外会社の金融のため、右(3)、(4)の手形につき保証人的立場で裏書人となつて自己の責任で泉大津信用金庫から融通を受け、また株式会社住友銀行に対しては自己が保証人となり、右訴外会社において右(1)、(2)、(3)の手形により手形割引をなしたのであるが、右(1)ないし(4)の手形が不渡となつたので、被控訴人は右(3)、(4)の手形につき裏書人としての責任上、右泉大津信用金庫に対し右手形金を償還して右手形を受戻したこと、また(1)、(2)の手形が不渡になつた結果、被控訴人は保証人として株式会社より、右(1)、(2)の手形と共に、(5)の手形につき期限前の買戻請求を受けたので、被控訴人は右訴外会社のため住友銀行に手形金と同額の金員を立替え支払い、右訴外会社において右手形を受戻すと共に、右立替金支払確保の趣旨で、右訴外会社から被控訴人に裏書譲渡したことが認められるから、被控訴人は本件手形の実質的権利者と認むべきで控訴人の右抗弁は理由がない。

そこで、控訴人の本件各手形が交換手形である旨の抗弁について考えるのに、右甲第一ないし第五号証、原審証人玉田順治の証言により真正に成立したものと認められる乙第二、第三、第四号証と同証言並びに原審における控訴会社代表者尋問の結果を綜合すると、控訴会社と訴外東洋自動機械株式会社とは、もともと取引関係はなかつたのであるが、その代表取締役が懇意であつたところから、互に融通のため、控訴会社と右訴外会社との間に、相互に満期を数日相違させた同金額の手形(双方の手形がそれぞれ同一金額、または、一方の手形金と他方の数通の手形金の合計とが同額)を交換的に振出し交付していたが、本件手形も亦右の如き交換手形の一であることが認められ、他に右認定を左右するに足る確証はないところ、右の如き交換手形も亦、商取引の決済等のためではなく、単に信用の乏しい者に金融を得させる日的で、振出をなすことにより、その手形の信用価値を高めることを目的とするものである以上、これをも広く融通手形と解するに妨げなく、右交換手形につき振出人に第三者に対する手形上の責任を負わせない旨の特約のなされていることについてはこれを肯認するに足る確証はないから、受取人に金融を得させる目的で約束手形を振出した者は、被融通者以外の手形所持人に対しては、それが期限後裏書の場合を除き、融通手形であることを理由に、いわゆる悪意の抗弁を以て対抗することができないものというべく、このことは、(3)、(4)の手形についての被控訴人の如く、現実に割引金を受取人たる訴外東洋自動機械株式会社に支払つたのではなく、ただ単に控訴会社の信用価値を信頼して、右訴外会社の泉大津信用金庫に対する手形上、或は手形外の債務を保証する趣旨のもとに裏書をなしたにすぎない場合にも(右事実は原審証人玉田順治の証言及び原審における被控訴人本人の供述により明らかである)、右玉田証人の証言と原審における被控訴人本人、控訴会社代表者各尋問の結果を綜合して認められる次の事情、即ち被控訴人は右訴外会社の保証人となることを前提に、自ら、或は右訴外会社と共に、控訴会社からその振出に係る融通手形の交付を求めたわけではなく、ただ右訴外会社が控訴会社から受領した右手形、即ち融通手形を利用する過程において、右訴外会社のため保証人たる地位に立つたにすぎず、被控訴人と控訴会社間には融通手形の直接の授受関係がないのみならず、融通の当事者たる関係がなく、しかも、被控訴人は裏書人としての責任上、前記信用金庫が訴外会社に交付した割引金相当の金員を右信用金庫に支払い、該手形を受戻し、実質的には被控訴人が受取人、即ち被融通者たる訴外会社に金融したのと同一の結果を招来している事情がある場合には、被融通者以外の立場に在るものに対する関係と見て、その理を異にしないものと解するのを相当とするから、期限後裏書により被控訴人がその所持人となつた前記(1)、(2)の手形を除くその余の手形(控訴人は前記(3)、(4)の手形も期限後裏書により被控訴人が取得したものである旨主張するが、前記認定の如く被控訴人が日附の記載なく裏書譲渡を受けている以上、他に反証のない本件においては、右裏書は手形法第二〇条第二項により支払拒絶証書作成期間経過前になされたものと推定されるから、これを以て期限後裏書と解するに由がない)については、振出人たる控訴会社は被控訴人に対しては、その手形が融通手形であることを知つてこれを取得したと否とに拘らず、手形債務の支払を拒絶しえないものというべく、右(3)、(4)、(5)の手形についての右抗弁は理由がない。

そして、右控訴会社振出の(1)、(2)の手形が訴外会社との間で交換的に振出された融通手形(即ち、受取人訴外会社が手形の借主)であり、しかも被控訴人が右手形を期限後裏書により取得したものであることは前記認定のとおりであるから、かような手形については、その交換手形を振出した相手方がその支払義務を果して、現実に対価的条件を充足するまでは、振出人(即ち手形の貸主)たる控訴会社は右被控訴人(即ち手形の借主の承継人)に対し融通手形の抗弁を対抗しうるものと解すべきところ、原審証人玉田順治の証言、原審における控訴会社代表者尋問の結果の一部並びに弁論の全趣旨を綜合すると、右(1)、(2)の手形と交換的に振出された控訴会社を受取人とする訴外東洋自動機械株式会社振出の約束手形は、控訴会社により金融に供せられたが、この訴外会社振出の手形がいまだ支払われないでいることについては何等確証なく、むしろその決済されたことが推測せられる状況であり、右認定を覆すに足る確証はないから、右(1)、(2)の手形が融通手形であるとする控訴人の抗弁も失当である。

そうすると、控訴人の抗弁はすべて理由がないから、振出人たる控訴会社は本件手形の所持人たる被控訴人に対し右手形金合計六七六、〇〇〇円を支払う義務があるものというべく、これが支払を求める被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものである。

よつて、これと同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法第三八四条第九五条第八九条を適用して主文のとおり判決する。

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